INTERVIEW教科の連携に統計検定を活用し、多角的にものごとを捉える力を養う


教務部探究係主任・数学科主任 長岡 敬佑 先生(左)
入試広報部長・数学科 細野 智之 先生(右)
学校の取り組み
中高一貫の女子校である田園調布学園中等部・高等部は、約10年前から、数学・情報・探究の各教科が連動して、データを活用した探究活動を展開し、その一環で統計検定を推奨して、いろいろな角度からものごとを捉える力を伸ばしています。受験では「一般会場団体受験」を利用し、年間約100名が受験しています。
統計をキーに数学・情報・探究が連携
数学・情報・探究の各科目で、統計やデータサイエンスをどのように扱っているか教えてください。
長岡|本校は6年一貫教育で、数学では、中3で数学Ⅰの「データの分析」を、高2で数学Bの「統計的な推測」が必修です。仮説を立ててデータを集めて検証するというサイクルを回しているのは、むしろ情報です。
情報は、たとえば都道府県のデータが集まっているサイトを利用して「学校数の多い都道府県の方が甲子園で勝利している数が多いか」など、生徒自身で問題を設定し、自分なりに結論を出した後、生徒同士でその結論について議論していく授業を行っています。
探究は、中等部も高等部も週1コマの「探究」の授業内で、グループや個人での探究活動を進めています。中等部は主に地域・企業の抱える課題、高等部は個人の興味・関心に基づく課題に取り組んでいます。
細野|中2では、教科書「体系数学」(数研出版)の「データの活用」において、ヒストグラムや箱ひげ図などを学びます。
長岡|情報と探究は並行するので、情報や数学で身につけた統計的なスキルを使いながら、高1、高2で探究活動を行っていく生徒もいます。
細野|この春に卒業した弓道部の生徒は、矢が的を射たデータをすべて記録し、それを探究活動のテーマにしていました。その成果を大学主催のコンペで発表して見事、賞をもらいました。それをアピール材料にして総合型選抜に臨んで、進学先を決めました。
また、2年前に卒業したソフトボール部の生徒は「野球では早生まれの方が不利ではないか」との仮説を立て、日本のプロ野球やメジャーリーグのデータを分析して、同じく大学主催のコンペで賞をとり、一般入試でしたが、データサイエンスを学べる学部へ進学しました。
情報の先生とはどのように連携していますか。
長岡|じつは、情報の方が統計的なサイクルを回せる授業設計になっていると思います。
「情報でこういう取り組みをしたいけれど、数学ではどう教えていますか」「どういう使い方をすれば数学の授業と齟齬がないですか」などのやり取りをよくしています。情報では、数学的なロジックをある程度無視して統計を使わせて、数学では、きちんと数学的なロジックを押さえるということですね。生徒たちは、数学で教わった統計が情報で使え、逆に情報で使った知識が数学の課題に利用できることを体験します。紐づけができているようだと、情報の先生とよく話をします。
探究で得られた知見に対する根拠をどの程度求めていますか。
長岡|ある程度できたら良しとしていますが、もう少し学術的な詰めをした方が良いかなと思っていて、今年度は、高大連携でお世話になっている大学の先生方に、統計的なデータの扱い方や研究の仕方について、ゼミのような形式で、より詳しくアドバイスしてもらえる取り組みを計画しているところです。

卒業生の声がきっかけに――
統計的なものの見方が教育方針に一致
入試問題などで統計が取り上げられることが少ない中で、以前から統計やデータサイエンスに注力してきた理由は?
長岡|本校は卒業生がよく遊びに来てくれるので、彼女たちからいろいろ話を聞きます。「もっとこういう数学を教えてほしかった」という要望で圧倒的に多かったのが統計でした。今から10年ほど前のことです。大学ではこんなに統計を勉強するのに、そして社会人になると統計的な素養が当然のように必要なのに、なぜ母校では統計に触れさせてくれなかったのか、という声です。
この多くの声に触発されて、学習に統計的な内容を入れようという模索が始まりました。折しも学習指導要領の改訂期で、数学Ⅰに「データの分析」が入るタイミングでもあり、統計教育に本腰を入れていくことになったわけです。
一方、当時いろいろな部署で、コンテストや資格試験に挑戦しようという動きがありました。数学科でも数理的な素養を試す資格試験を探していたところ、統計検定が目に留まりました。学校で教える内容を少し超えるところもあるけれど、統計教育に力を入れるのだから、やらせてみようということで、統計検定への挑戦が始まりました。
細野|そういったときに知り合いの大学の先生から、統計的な学びができる実験授業をさせてもらえないかという話がありました。偽薬を用いた薬の効果測定をテーマとした授業でしたが、こういった内容ならデータを用いた本当の統計の学習が可能だと実感して、そのアプローチを数学Ⅰの中に落とし込む形で、統計の授業を展開していくことになりました。
つまり、10年前、データの活用を本格化しようとしたときに、学習指導要領が変わる、模範となる授業に触れた、統計検定があった、と、まさにエンジンにガソリンが注入された感じですね。
数学教師として統計を教える経験は少なかったと思うのですが、どのように対処したのでしょうか。
長岡|多くの先生がそうであるように、私もデータを使った統計の授業の経験はほとんどなく、そもそも「統計って何だろう」と思っていた一人です。数学の教師になっても世の中と関連が大きい統計学が理解できていないところにコンプレックスを感じて、勉強したいと思うようになりました。
数学科でも、学習指導要領の変わる直前でもあったので、やるしかないという状況のもと、全体的に前向きになっていきました。たとえば、予備校が行う教員向けの統計学の講習会へ参加する教員も出てきました。
その予備校の講習会ですが、統計検定の問題を使って統計手法を勉強していくもので、とても参考になりました。また、YouTubeにたくさんの統計検定の解説があり、とてもわかりやすく、役に立っています。
細野|私もまさに同じで、統計の公式は覚えたものの数値が示す意味がわからず、教師になっても教えることはないだろうと思っていました。教科書の問題を見てもつまらないと思っていたのですが、大学の先生の模擬授業や、4級や3級の問題を参考にするうちに、実生活の問題をデータにからめて解決していくのであれば、生徒の知的好奇心にヒットするはずだと考え、統計とのつき合いを深めていった次第です。
統計教育やデータサイエンス教育を大切にする意義は何ですか。
長岡|簡単にデータが手に入るものの、そのデータをどう使って、どう判断するかが大切です。データの見せ方によって人をだましたり、だまされたりすることがあるので、正しい統計的知識をもって、正しく情報の処理ができる人になってほしいというのが、統計教育を大切にしている理由です。
細野|田園調布学園では、6年間かけて自分としっかり向き合うということを重視しています。そのためにいろいろな角度から物事を考えたり、いろいろなものとアイデアをつなげたりする機会が必要です。いろいろな方向から見ることができる統計的なものの見方は、本校が力をいれていることにマッチしているわけです。その力をつける活動が探究活動や教科横断型授業です。
統計検定で、授業でフォローできない力を伸ばす
学校として統計検定をすすめる理由は何でしょうか。
長岡|数学では、学習指導要領に従って、数学的な理屈に重きを置きながら統計を教えます。一方、情報や探究では、自分が取り組みたい課題を自分で設定し、仮説を立て、それに必要なデータを探して分析を進めます。このとき生徒は、自分が設定した仮説や分析手法を使うため、限定的な考えに陥ることがあります。いろいろなグラフや統計データを多彩に見ることができない状況に陥ってしまうのです。
これに対して、統計検定を受けることで、さまざまなタイプのグラフや計算の仕方が勉強できます。つまり、学校の授業でフォローしきれない部分にスポットを当てられるのが、統計検定を利用する大きな利点だと私は考えています。
細野|私も同様の考えで、統計検定では生データを使った問題が散りばめられているので「このデータからはこれ以外のことも言えるのでは」「自分だったらこう考える」といった思考のきっかけになると思っています。
また、統計検定では「正しくないと思われるものをすべて選びなさい」という問題もあって、非常によく練られています。私たちではこういった問題はなかなか作れないので、統計検定の受験を推奨することで、多彩な見方や考え方が鍛えられ、自分なりの考えをもって情報を見る力が育つと考えています。
長岡|統計検定を紹介するのは、中3が最初です。中3でデータの分析を習うので、それに合わせて4級や、少し難しいですが3級にチャレンジするのが本校での一般的なスタイルですが、統計検定には副次的な効果もあって、それは大学入試に活かせることです。
1つは、共通テストの免疫づくりになることです。学校の副教材レベルでは、共通テストの数学Ⅰや数学Bの統計分野の問題には面食らうと思います。しかし、統計検定の問題は多様なデータが用いられ、問題場面とデータをしっかり解釈したうえで解くことが求められるので、共通テストのしっかりした準備になるということです。
もう1つ、統計検定に合格すると資格が得られるわけですから、総合型や学校推薦型の入試でアピール材料に使えます。ですから統計検定には入試を見据えた効果もあると思っています。

CBT方式の団体受験をどうやって実施しているのか教えてください。
長岡|本校では、従来の紙を使ったPBT方式のときから、校外の一般会場での団体受験を採用しています。パソコンを用いるCBT方式になってからは、受験会場と試験日程を決め、一斉に受験する「一般会場団体受験①」を利用しています。
GW、夏休み、本校の入試期間など、年3、4回、試験日を設定しています。場所はオデッセイテスティングセンター有楽町店です。このようにしているのは、学校行事の関係で校内での実施に時間が取れないからですが、例えばパソコン室や機材に問題がある学校でも、「一般会場団体受験」は有効だと思います。
細野|CBT方式になってありがたいのは、試験の機会が増えたことです。PBT方式は全国統一日程でしたが、CBT方式はいつでも受けられるので、本校の行事に合わせて日程設定ができるようになりました。
長岡|CBT方式へ変わったことに付随して、公式問題集が年度別編集から分野別編集になりましたよね。これは素晴らしいと思います。その単元に集中して勉強できるので、出題・解答の感覚がつかみやすくなりました。
細野|数学の学力を伸ばしていくときも、すべての分野を満遍なくするよりも、1つの分野に集中して一定期間勉強する方が効果的であったりすることと同じですね。
長岡|以前は受験する生徒のために授業で過去問を取り上げたりしましたが、最近は団体受験のアナウンスをするだけで、ある程度の生徒は受けてくれます。昨今のデータサイエンスの人気から、統計に対する意識が高まっているからだと思います。取り組みを始めた頃は強制的に受けさせていたこともあって150人ぐらいいましたが、自主性に任せている現在でも年間のべ約100人が受けています。
生徒さんのみなさんの変化はどうですか。
細野|データサイエンスやそういう方面に興味をもつ子は増えました。統計検定で、そういう進路があることを理解できているのだと思います。こういった取り組みをしていないと「データサイエンスって何なんだろう」と流れていってしまったと思います。
長岡|CBT方式になってから、2級を受ける生徒も現れ始めました。
ほかの学校の先生方へ、参考になることがあれば教えてください。
長岡|最近の子は、紙ベースだけによる勉強は苦手になったなと思います。生徒は統計検定の解説動画や統計関連のページをよく見ています。それらの解説はわかりやすいので、YouTubeや信頼のおける方が作った統計のサイトなどを積極的に使わせれば良いと思います。
また、いろいろなデータを引っぱってくる際、e-statなどデータのアーカイブサイトはとても役に立つと思います。生データのそろっているところを生徒に提示してあげると探究活動が進みますし、そういったリンク集は現場としてもありがたいです。
細野|私は、社会科の先生から「くらしと統計」や「地理統計Plus」などの資料集を毎年もらっています。本校の中学入試は、算数では珍しく統計の問題を出題しますが、こういった資料集のデータやグラフを利用し、データを見る力を試すようにしています。このように身の回りにあるデータをしっかり使っていくことが、統計検定に合格することのみならず、多角的にものごとを見る力をつけるために大切だと思っています。
——数学科、情報科、探究科が連携し、理論と実践をうまく組み合わせた探究活動でデータ活用を促すとともに、データやものごとを広い目で見るために統計検定が活用されている、大変優れた取り組みをお聞きすることができました。何よりも教育方針に統計検定がマッチしていったことに感銘を受けました。一般会場団体受験やCBT方式のメリット、YouTubeなどのネット資源の活用、進路選択への利用など、新たに認識したことも多く、大変有意義でした。細野先生、長岡先生、ありがとうございました。
新しい発見が待っている!

考える力を身につけよう

役立つスキルを手に入れよう

学校生活にも活かそう