インタビュー

第1回統計検定文部科学大臣賞受賞者インタビュー(統計検定準1級)

作成者: Admin|Oct 7, 2025 6:00:00 AM

最先端理論の進歩を追体験したい-内容だけでなく、背後の考え方まで学び、自分のOSを育てていく!

統計に対する印象は?

高校までに習った統計について、どのような印象をもっていましたか。

私自身は、高校で統計を学び始めた当初から、統計に強い興味を抱いていました。共通テストでも迷わず統計を選択したほどです。なぜかというと、統計は他の数学の分野より実用性を身をもって理解できたから、手触り感があるものであったから、ということかと思います。

大学で学んだ統計についてはどうですか。

高校で学んだ統計は、あくまで道具としての使い方に重点が置かれており、「自然現象には正規分布が現れる」、「分散はnで割るものだ」と教わるだけで、「なぜそうなるのか?」は説明されず、「そういうものだ」という前提のまま問題演習に取り組んでいたため、どこかもやもやした気持ちを抱いていました。ところが、大学で統計学を体系的に学び始めると、その長年のもやもやが一気に解消されました。正規分布が中心極限定理によって自然に現れること、分散の計算が自由度に関連すること、など、現象とその理論的根拠が紐づけされたことで、まさに霧が晴れるような感覚でした。単なる数値の計算ではなく、「データの向こう側にある真実に迫る」という統計学の本質的な役割が見えてきたのです。
さらに驚かされたのは、統計学の応用範囲の広さでした。高校時代は「データ処理のツール」程度に捉えていましたが、実際にはあらゆる分野で統計学の考え方が基盤になって問題が解決されていることに深い感銘を受けました。

当時は統計がどのように役立つものだと考えていましたか。

高校のときは、役立つものというより、統計はあくまで「統計の中」で閉じた技術と考えていました。が、大学になって、他の学問分野や社会の現場と直接つながっているという実感が出てきたという感じです。

統計検定に挑戦したきっかけは?

「統計検定」に関心をもった時期や背景を教えてください。

大学3年生の秋に、大規模言語モデル(LLM)やマルチモーダルなAIなどの最先端の技術を扱う研究室に配属が決まり、研究を進めていく中で、それらの技術発展の軌跡を辿り、理論的進歩を追体験したいと思ったのがきっかけでした。特に、統計検定の準1級がその目的に最もかなっていると思い、受験を決めました。受験は大学4年生のときです。

数ある資格の中で、なぜ「統計検定」を選んだのですか。

私自身は将来的にテクノロジーとビジネスの専門性を高めて、両軸の中で社会にとって価値を還元するような人間でありたいと思っていたので、どうせ社会に出たら必要になるのだから、学生の間にとっておこうと思い、中小企業診断士や応用情報技術者試験など、関連の資格を4年生のときに取得しました。その中に、統計検定があったわけです。

受験に向けて

どのように勉強(準備)しましたか。また、留意したことはありますか。

方法は極めてシンプルで、日本統計学会認定の統計学実践ワークブックをまるまる1冊完璧に理解するということが私の勉強法でした。そこに記された全ての文章を行間に至るまでじっくりと咀嚼することに注力しました。特に、なぜこのような導出となるのか、数式がもつ本質的な意味は何かなど、授業で使った教科書のみならず、ウェブ上の情報やChatGPTなどのツールを活用して、自分の言葉で解釈を書き加えていくという工夫をしました。

おすすめの勉強法を教えてください。

私の経験でいえば、ワークブックなどの解法を鵜呑みにするのではなく、自分自身の思考のOSを育てて、その延長に自然と問題が解ける状態を目指すのがよいと思います。私自身、ワークブックの問題が最初からすぐに解けたわけではなかったのですが、初めての問題が出ても自分の知識と思考回路でうまく解法を導けるようにするにはどうすればよいか、自然と問題が解けるようにするにはその前の部分としてどういう要素を押さえておけばよいのかということを常に考えていたことが功を奏したのだと思います。

勉強中に印象に残っているエピソードはありますか。

最も印象的だったのは、大学近くの油そば屋での行列を観察していたときのことです。「この行列の長さは、果たしてどのような確率モデルで説明できるのだろうか」とふと思い、次の客が到着するまでの時間間隔をモデル化してみたところ、驚くほどポアソン分布と指数分布の仮定にフィットしていることがわかりました。教科書の中にある抽象的な理論が、身の回りの現象を「定量的に説明する言語」として立ち上がってきた瞬間でした。それまで記号や数式として見ていたものが、現実の行動パターンと自然に接続されることに、純粋な感動がありました。

合格を通して得たもの

合格により得られたことや気づきはありますか?

一見魔法のように映るAIなどの最先端技術も、その背後には厳密な数学的構造や理論が存在しており、それを理解することで、技術を過大視することなく適切に使いこなす姿勢が備わるということを実感したことです。LLMも非常に単純化してとらえると、学習データに含まれる膨大な言語パターンを統計的に処理して抽出しているわけで、そういうことに目が向いたのは統計検定を通してであり、批判的な姿勢ではないですが、慎重に見れるようになったことはよかったことだと思っています。もし、それがなければ、技術を過信したり、AIに丸投げしたりしていたと思います。統計的構造やその挙動の本質に立ち戻れたということですね。

現在の研究にどのように活かせていると感じますか?

2つあります。
1つ目は、AI・機械学習分野の最新論文を読むときの理解力が格段に向上したことです。以前は論文中の数学的表記や統計的手法を読み飛ばして概要レベルの理解にとどまることが多くありましたが、いまは、数学のストーリーや論文の核心部分である数学的記述を正確に読み解けるようになりました。
2つ目は、統計検定準1級の範囲は広いことから、新しい統計的知識の習得速度が劇的に向上したことです。引き出しとしてはできてきたので、応用的な統計手法や最新の分析技術に出会った際、それらを自分の知識体系の中に位置づけて理解できるようになりました。

文部科学大臣賞受賞の感想をお聞かせください。

率直に申し上げて驚きと感激で胸がいっぱいでした。本当にありがたく思っているのは、授賞式の開催や統計検定の運営に携わってくださったすべての関係者の皆様です。このような機会を設けていただき、改めて深く御礼申し上げます。また、この受賞は私一人の力ではとても成し遂げられませんでした。研究室で日々学びを分かち合い、互いに切磋琢磨してきた仲間たち、温かなご助言と深い学識で常に支えてくださる先生方、そして大学院進学を温かく支え見守り続けてくれた家族には感謝してもし切れません。

今後、統計やデータ活用に関して、どのようなことに取り組んでいきたいですか。

今後は、統計学ならびにデータサイエンスの発展に微力ながら寄与し、蓄えてきた力をもって、次の時代を切り拓く一人として社会に貢献していければうれしいなと思います。短期的には、いま、購買データなどを扱っていますが、その共同研究において一研究者として新たな成果に貢献できたらと思いますし、長期的には、社会人になって、データや統計を深く理解しているからこそ出せるビジネスの価値などを創出できたらよいなと思っています。

統計検定を目指す人へ

最後に、「統計検定」を目指す人へ、アドバイスやメッセージをお願いします。

私が学習に使用したのはワークブックと過去問です。過去問やワークブックの内容を理解するのは非常に骨の折れる作業だとは思いますが、これらを内容だけでなく、背後の考え方まで学び、その学習の中で自分のOSを育てていけば、きっと合格をつかめるはずです!
私もまだまだ統計やAIについて勉強途中ではありますが、今回の私の話が何かの一助になれば幸いです。