真嘉比|沖縄で面白い会社を作りたいという想いがきっかけでした。沖縄のIT業界は給与水準が低く、労働環境も厳しい状況にあります。ITは本来、世界中どこでも同じサービスを提供できるはずなのに、地域によって環境が大きく異なることに衝撃を受け、19歳の頃に起業を志すようになりました。
私は、高専を卒業後、長岡技術科学大学に編入し、さらに大学院まで進学しました。その後、東京でデータサイエンティストとして3年間勤務しましたが、データサイエンスが盛り上がり始めたタイミングで起業を決意しました。
真嘉比|2014年頃からディープラーニングが注目され、AI系ベンチャーが増え始めました。技術で勝負できると確信して、沖縄から最先端のデータサイエンス企業を立ち上げようと動き出したんです。
腕さえあれば小さな会社でも戦えるし、それが沖縄であってもやれるという確信がありました。世の中にはまだデータサイエンスを強みとする会社が少なかったので、「やるなら今だ!」というタイミングで起業できたのは、本当に大きかったです。
真嘉比|運のいいことにデータサイエンスは、私がデータサイエンティストとして働き始めた頃から盛り上がり始めたんです。データサイエンス自体は広義な言葉だと思いますが、私自身は「データを軸としてビジネスの成長を助ける技術」と捉えています。
真嘉比|データサイエンスの現場では、単に大量のデータを扱うだけでなく、そのデータから意味のある情報を引き出し、ビジネスの課題解決に結びつけることが求められます。
ここで統計学の知識は欠かせません。統計的な手法を用いてデータのばらつきやノイズを見極め、施策の効果や因果関係を正確に評価することで、クライアントの意思決定を支援できるからです。
真嘉比|例えば広告配信の最適化の仕事では、どの広告を、どのユーザーに、どのタイミングで見せるのがもっとも効果的なのか、統計的仮説検定を用いて検証しました。
単に「感覚で効果がありそう」と判断するのではなく、「効果の差が統計的に有意か」を検証し、不必要な広告予算の浪費を防ぎます。
また、アンケートデータとユーザー行動データを統合し、なぜユーザーがサービスを乗り換えたのか、乗り換えるユーザーの割合をベイジアン・ネットワーク(事象間の確率的な因果関係をグラフ構造で表現するモデリング手法)でモデル化しました。これにより、クライアントはターゲット顧客に対する効果的なアプローチ方法を具体的に立案できました。
こうした事例は、単なる技術の適用ではなく、統計学を基盤とした深い理解と実践があって初めて実現できる成果です。
真嘉比|はい。例えば工場に設置するセンサーの種類やデータ収集の間隔は、分析で得たい成果やリアルタイム性のニーズによって大きく変わります。感度が高くてもコストがかかり過ぎては持続しません。
このように「何のために、どのデータを、どの頻度で取るべきか」を統計学的視点で設計し、費用対効果の高いデータ基盤を構築することがプロジェクトの成功に直結します。
真嘉比|データサイエンスの分野は幅広くて、自動運転のような高度なエンジニアリングもあれば、効果分析のように統計スキルが必要な仕事もあります。でも、すべてのスキルを持っている人はほとんどいません。だから私たちは、さまざまな職種の中で何かしら共通する領域を持っている人を採用しています。
例えば、もともと数学科出身で統計解析を深く学んだ人が、統計の分野から入ってくるケースもあります。一方で、ウェブ開発エンジニアとしての経験を活かして、機械学習やエンジニアリングの領域から参入する人もいます。
そうした背景や素養を持つメンバーが「データサイエンス」という共通軸で弊社に参加し、私自身もプロジェクトに一緒に関わりながら、二人三脚で育成してきました。こうした進め方でしっかりとデータサイエンティストを育てています。
真嘉比|はい、その通りです。今の世の中では新しい技術が次々と出てきて、どんどん進化しています。私たちもそれを学び続けなければなりませんが、その技術がどう発展してきたのか、そして何なのかを理解するには、統計学や数学の基礎知識が欠かせません。
この基礎がないと、技術はただのブラックボックスになってしまい、お客様に価値あるサービスを提供するのが難しくなります。だからこそ、こうした基礎的なスキルや素養がないと、急速に進化するテクノロジーに追いつけなくなると思っています。
基礎力はマラソンでいう体力のようなもので、継続的に学び続ける力を支えるのが、統計学や機械学習といった技術です。私は新人研修に統計学を取り入れることを、とても重視しています。
真嘉比|沖縄ではITエンジニアは多いのですが、統計学や数学に強い人材はまだ少ないんです。
ただ最近は、データサイエンスの盛り上がりもあって、もともと統計や数学を学んでいた人が転職を希望するケースも増えてきました。一方で、地元の新卒や学生アルバイトは必ずしも統計に強いわけではないので、弊社で働きながらデータサイエンスに触れ、育っていく流れを大事にしています。こうして長期的に関わるなかで、正社員化するケースも多いですね。
真嘉比|統計学が根底にあるからこそ、新しい技術を理解し、応用できる人材が育ちます。これは誰にでもできることではなく、しっかり学ぶ姿勢が必要です。だからこそ私たちは、統計学を中心に据えた育成を徹底し、沖縄から世界で通用する人材を育てていきたいと思っています。
社員の中に統計検定1級を持っている者がおりますので、少し話を聞いてみてください。
中西|私は大学院で数理物理学を専攻し、純粋数学の研究をしていました。理論の美しさを追求していましたが、社会に役立つかどうかは別問題でした。就職活動の際に「あなたの能力は役に立ちますか?」と問われ、「正直、役に立ちません。」としか答えられなかったんです。
真嘉比|(笑)
中西|数学の勉強にはとても時間がかかり、中にはまるで世捨て人のように打ち込む人もいました(苦笑)。それだけ苦労しても、定理の証明ばかりで社会の役に立たないのは、どこか寂しく感じたんです。結局、私は数学の研究から離れ、エンジニアとして働く道に進みましたが、「役に立つ数学」としての統計学には興味を持ち、趣味のような形で勉強を始めました。
それから1年ほど経ったころ、統計検定の存在を知りました。なかでも統計検定1級は、自分の勉強の題材にちょうどよいと感じました。過去問を見て「自分でもいけそう」と思い、統計数理と統計応用の試験に挑戦したところ、統計数理に合格しました。
中西|それで「俺いけるんちゃうか」と思ってしまったんですよ(笑)。そして統計学を仕事にできないかなと考え始め、データサイエンティストに転職しました。あの時、調子に乗らなければ、今ここにいなかったと思います。
中西|過度な時間はかけていませんが、統計応用の対策はしっかり行いました。あと、過去問を繰り返し解くのは必須ですね。過去問なしでは話にならないと思います。
中西|僕は主に機械学習の仕事をしていますが、統計検定の知識を直接使う場面は少ないです。ただ、統計的機械学習の理論理解に統計学が欠かせないため、学んだ知識が理解の助けになっています。その結果、「理論に強いエンジニア」として評価され、独自のポジションを築けています。
真嘉比|2級取得者は多いですが、1級はまだ少数です。準1級を目指して勉強している社員もいます。
真嘉比|はい。できました。うちの会社は沖縄県で群を抜いて給与の高い会社だと思います。
真嘉比|そうですね、とにかく「目立つ会社」にしていきたいと思っています。この「目立つ」というのは、少数精鋭の一部が注目されるという意味ではなく、いろんな会社を巻き込みながら存在感を示せる会社にしたいということです。
沖縄のような地方で、似たような会社がもっと増えてほしいとも思っています。そうなれば東京のように人材が流動し、健全な競争が生まれ、地域全体が活性化するはずです。そのためには、まず私たちが成功事例になることが大切ですが、私たちだけでは限界があります。
理想は、弊社を卒業した社員たちが他の会社で活躍し、沖縄のIT業界全体を盛り上げることです。もちろん、会社自体も大きく、強くしていきたいと思っています。
私はシンプルに、データというものがすごく好きなんです。
このデータ領域で、私たちがいるところが最前線だと思っています。この世の中の大きな変化を楽しみながら、いつまでも最前線を走ることを、しっかり実現していきたいと思っています。
真嘉比|はい。もうどこまで会社を大きくできるかというチャレンジだなと思っています。会社経営というのはすごく面白いですね。いろんなモチベーションを持った人が集まってきて、その社員と家族の生活を支えていると思うと責任も感じます。
冗談めかして言えば、いつか1万人規模の会社になれば、それだけで沖縄の一つの生活基盤になるでしょう。そうなれば「地元に魅力的な会社があるから沖縄で働きたい」「この会社を目指して情報系や数学を学びたい」と言ってくれる人も増えるはずです。私が本当に実現したいのは、そういう沖縄の未来です。
真嘉比|統計検定に限らず、検定というものは、体系立てて勉強できる機会を与えてくれます。受験の過程によって不足していた知識を補うことができますし、資格を持つことで高いスキルを証明することにもつながる。企業としては、その人が学んできたプロセスと成果を評価しやすいというメリットもあります。
一方で、中には「学んではいるけれど、どう活用すればいいのかが見えづらい」という声もあります。しかし実際には、マーケティング分析のような応用的な場面だけでなく、もっと基礎的なデータリテラシーの部分でも非常に有効です。データを正しく理解できれば、根拠のない数字や誘導的な情報に惑わされず、一喜一憂することもなくなります。これはビジネスだけでなく日常生活にも大きく活きる力です。
今後、データを扱うスキルはますます重要になります。そのときに「どのように役立つのか」を企業側も積極的に示していくことで、学ぶ人にとって具体的なイメージやモチベーションにつながると思います。統計学を学ぶ意義をより多くの人が実感できるよう、統計検定には今後も大きな役割を担ってほしいと考えています。